空間参照系(測地系/座標系/投影法)について 

地図データやGISを触っていると必ず1度は悩まされるのが測地系や投影法などのデータ定義です(これらを空間参照系または座標参照系と呼びます)。GISを扱ううえで避けて通れない内容で、しかも少し理解が難しい部分でもあるので、今回は測地系や投影法について整理してみたいと思います。

先に結論をまとめると、次のような体系になっています。

空間参照系

空間参照系(別称:座標参照系、英称:Spatial Reference System、Coordinate Reference Systems)とは「現実世界の位置を特定するための仕組み・ルール」です。例えば東京駅の場所を人に伝えたいとき、人間同士であれば「東京都千代田区丸の内1丁目」と言えば伝わります。また「有楽町駅と神田駅の中間の駅」と言っても伝わる人には伝わるかと思います。これらは言葉で位置を特定するための仕組みです。一方で機械的に位置を特定するときは、文字よりも数字の方が扱いやすく、GISの世界では数字で位置を表現するためのルールがいくつか存在します。一般にもよく聞く「緯度経度」はまさに位置を特定するための仕組みの1つです。

上で「GISの世界では数字で位置を表現するためのルールがいくつか存在します」と書きましたが、そのいくつか存在する状態が、GISを扱う際に悩まされる要因になっています。例えば、日本のGISデータを触っていると次のような空間参照系によく出会います。

名称(空間参照系空間参照系識別子(SRID)
世界測地系(JGD2011)・緯度経度座標系EPSG:6668
世界測地系(JGD2011)・平面直角座標系Ⅰ系~ⅩⅨ系EPSG:6669~6687
世界測地系(JGD2011)・UTM座標系(ZONE51~55)EPSG:6688〜6692
世界測地系(JGD2000)・緯度経度座標系EPSG:4612
世界測地系(JGD2000)・平面直角座標系Ⅰ系~ⅩⅨ系EPSG:2443~2461
世界測地系(JGD2000)・UTM座標系(ZONE51~55)EPSG:3097~3101
旧日本測地系(TOKYO Datum)・緯度経度座標系EPSG:4301
旧日本測地系(TOKYO Datum)・平面直角座標系Ⅰ系~ⅩⅨ系EPSG:30161~30179
旧日本測地系(TOKYO Datum)・UTM座標系(ZONE51~55)EPSG:102151~102156
WGS84・緯度経度座標EPSG:4326
WEBメルカトル座標系EPSG:3857

多いですね…。これを全て丸暗記するのではなく、上の表の各要素の意味が分かれば空間参照系の理解が進むかと思います。

空間参照系識別子(SRID)

空間参照系には、1つ1つに対して固有の識別IDが振られています。そのような識別IDのことを空間参照系識別子(SRID:Spatial Reference System Identification)と呼びます。また、SRIDにはいくつかの表記法がありますが、よく使われるのはEPSGコードと呼ばれるコードです。上の一覧表にもEPSGコードを掲載しています。

EPSGコード

EPSGコードは、欧州石油調査グループ(European Petroleum Survey Group)が作成した識別IDです。名前の通り、欧州諸国の石油調査・管理を行っていた国際団体です。石油調査の過程でGISの専門家が集い、調査データ管理の観点からEPSGコードが生まれました。現在、同団体は国際石油・天然ガス 生産者協会(OGP:International Association of Oil and Gas Procuders)に吸収され、EPSGコードはOGPにて管理されているようです。

測地系

空間参照系は測地系と座標系の2要素で成り立っています。上の一覧表には11種類の空間参照系を載せました。そのうち上から9つは、実は3つの測地系と3座標系の組み合わせで成り立っています(3測地系×3座標系=9空間参照系)。この段落では測地系について整理します。

測地系とは、簡単に言うと「地球のカタチを定義するための仕組み」です。地図やGISデータは言わば測量の成果物、その測量を行ううえで必要なルールが測地系となります。

測量の細かい話は割愛しますが、ざっくり言うと「これから絵を描くぞ!!」というとき、白紙を用意しますよね。同様に測量をするときは「白紙の地球儀」を用意するのですが、少し厄介なことに白紙の地球儀(地球のカタチ)は誰も分からないのです。今でこそ衛星画像である程度のカタチは見えますが、地球の中心(原点)はどこで、地球の半径は何㎞か?は計算方法によってブレが生まれてしまいます。まして、人口衛星の無かった時代には様々な地球のカタチが存在していました。そのため、測量の前提になる地球儀を一定のルールで決めようとしたのが測地系となります(厳密には測地系で定義する要素は他にもありますが、ここでは簡単な説明にとどめたいと思います)。

測地系には大きく、世界測地系(地心測地系)と局所測地系の2系統があります。また、現在日本で一般に使われている測地系は主に4つあります。

世界測地系(地心測地系)

先ほど測地系を「白紙の地球儀」に例えました。測量とは「白紙の地球儀に実物の地球をトレースすること」とイメージしてみてください。トレースするには両者を重ね合わせる必要があります。世界測地系(地心測地系)とは、この重ね合わせを「白紙の地球儀の中心」と「実物の地球の重心」を揃えることで実現する方式の総称です。現在多くの国の測量分野で採用されている測地系です。

実物の地球は地球儀のように真ん丸ではないため、重ね合わせも簡単にはいかない…。が、人工衛星などの技術発展によりこの手法が現実的な技術として普及。

日本で使われることの多い世界測地系は次の3つです。

  • 世界測地系(JGD2011)、(別名:日本測地系2011)
    測量法に規定されている測地系です。日本の公式な測量(国土地理院や自治体の発行する地図など)は全て、この測地系を使用しています(2021年現在)。
  • 世界測地系(JGD2000)、(別名:日本測地系2000)
    2002年~2011年まで、日本の公式な測地系でした。東日本大震災による地殻変動を考慮した結果、JGD2011に移行しました。測量法改正により現在は測量の現場では使われませんが、一部で現在も流通しています。
  • 世界測地系(WGS84)
    アメリカが管理する測地系で、GPSによるナビゲーションなどで使われています(GPSは元々アメリカ軍の管理する衛星測位システムですが、日本でも馴染み深いように世界的に使われる測地系となっています)。

局所測地系

世界測地系に対して、「白紙の地球儀のある点」と「実物の地球のある点」を揃える方式を取る測地系を局所座標系と呼びます。昔は天文測量(星の位置などから自位置の緯度経度を算出する方法)が一般的であったため、この方式の測地系が多くの国で用いられていました。

実物の地球は地球儀のように真ん丸ではないため、揃えた地点から離れるほど、地球儀モデルと現実の地球の位置はズレが大きくなりやすい。

日本で使われることのある局所測地系は次の1つです。

  • 日本測地系(Tokyo Datum)、別名:旧日本測地系、Tokyo1918
    1918年から2002年までの日本の公式な測地系です。局所測地系は衛星測位システム(GPSやみちびきなど)の普及した現代では相性が悪いこと、明治時代に規定された測地系では地殻変動などによる位置ズレが大きいことなどから、世界測地系・JGD2000に移行することとなりました。1990年代のGISシステムが残存することなどから、現在でも日本測地系(TokyoDatum)のデータに出会うことが稀にあります。

測地系の扱い方

測量などを行う際には測地系は厳密に使い分ける必要があります。ただ、世界測地系の名の付く3測地系(JGD2011、JGD2000、WGS84)は定義差は小さいため、趣味の領域などで少しGISデータを触る場合にはあまり差を意識しなくても良いかと思います(例えば、JGD2011とWGS84の各測地系で「緯度35.11度、経度135.18度」を指し示そうとしたとき、現実世界では0.数ミリほど違う場所を指している状態となります)。

一方で、3つの世界測地系と日本測地系(TokyoDatum)の間での使い分けには注意が必要です。両者の間では同じ緯度経度値でも現実世界では400m以上の差があります。過去には測地系の違いを運用時に無視した結果、大トラブルが発生した事例があります。くれぐれも測地系の扱いにはご注意を…。

「ガンダム駅」なぜできた アップル地図騒動の真相(日本経済新聞/2012年10月17日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZZO47270450V11C12A0000000

座標系

測地系の章でもお話ししましたが、空間参照系は測地系と座標系の2要素で成り立っています。上の一覧表には11種類の空間参照系を載せました。そのうち上から9つは、実は3つの測地系と3座標系の組み合わせで成り立っています(3測地系×3座標系=9空間参照系)。この段落では座標系について整理します。

座標系には大きく2つの座標系が存在します。ざっくり言うと、地球を球体のまま扱うか、平面化して扱うかで2大流派があると思ってください。

地理座標系

地球という球面上で、位置を特定するための座標システムです。一般にも良く使われる緯度経度はこの地理座標系になります。

投影座標系

球を一度平面化(投影)し、その平面上で位置を特定するための座標システムです。紙地図上では地球を球面のまま表現するのは難しいため、古来より様々な平面化の方法(投影法)が考案されてきました。なお、投影座標は「ミカンの皮むき」に例えられることもあります。ミカンの皮は球体ですが、指で切れ目を入れて何枚かに分けて皮を剥くことで、平面に近い皮がいくつか生まれるかと思います。同じように、投影座標系では地球をいくつかのブロックに分けて平面化処理(投影)を行います。

投影座標系として国内で使われるものは複数あります。ミカンの皮に例えると「どこを起点に、何回に分けて、どんな形で皮を剥くか」の違いが、投影座標系が複数ある要因と思ってください(皮を細かく向くほど、剥いたあとの皮のカタチは歪みが小さく平面に近づきますよね。同様に投影座標系も細かく剥くか、粗く剥くかで平面化後の地図の歪みが変わります)。

  • 平面直角座標系(19座標系)
    日本国内で使われる投影座標系の1つです。国や自治体の発行する地図は、ほとんどがこの投影座標系に基づいて制作されています。国が定義を定めており、名前の通り日本を19ブロックに分割して平面化しています。日本を細かくブロック分けしていることから平面化後の地図の歪みが小さいのが特徴です。
  • UTM座標系(ユニバーサル横メルカトル座標系)
    国際的に使われる投影座標系の1つです。地球全体を60ブロックに分割して平面化しています。国際的に広域図で用いられることが多く、日本でも地理院の発行する広域図はUTM座標系が使われています。
  • Webメルカトル座標系
    Googleが考案した投影座標系です。GoogleMapsは2000年代~2010年代にかけて地図・GIS領域に大きな影響を及ぼしました。元々Webメルカトル座標系はGoogleMapsで使われていた投影座標系ですが、Web配信をするうえで扱いやすい仕様であったため、現在では多くのWebサービスで採用されています。

まとめ

空間参照系は1つ1つを細かく覚えるのではなく、測地系・座標系(+投影法)の各要素に分けて、大枠を理解することが望ましいと思います(といっても、各要素とも深く理解しようとするとキリがないですが…。各要素の深い整理は別の機会にしたいと思います)。