GISの重要性と利用シーン まとめ

地理空間情報システム(GIS)は、地理的なデータを解析し視覚化する強力なツールです。GISは多岐にわたる分野での役割があり、ビッグデータがあふれる現代においてその役割はますます高まっています。この記事では、都市計画や災害対策、環境保護などのGISの応用分野について事例を交えてGISの現在地点を整理したいと思います。

ビジネス・マーケティング

市場分析の精緻化

GISを用いると、消費者の地理的な分布や購買パターンを詳細に分析できます。これにより、ターゲット市場の特定や、新しい市場の機会の発見が可能になります。

店舗立地の最適化

店舗の立地選びは、ビジネスの成功に直結します。GISを使用すると、人口密度、交通状況、競合店舗などのデータを組み合わせ、最適な立地を科学的に選定できます。

カスタマイズされたマーケティング
地域ごとの消費者の嗜好やニーズをGISで分析することで、カスタマイズされたマーケティング戦略の展開が可能になります。これにより、顧客エンゲージメントの向上が期待できます。

サプライチェーンの効率化

GISを用いると、サプライチェーンの各段階を視覚化し、最適化することができます。物流ルートの計画や在庫管理など、効率的な運用が実現します。

参考情報

日本で本格的にGISを活用したマーケティングを展開したのは日本マクドナルド社(独自の社内システムMcGISを1996年に導入)と言われています。マクドナルドでのGIS活用事例に関しては、下記の記事が参考になりそうです。
外食業界最強の出店システム”マックジス”とは?(東洋経済/2013.08.08)
たこ焼きの売り上げがGISでアップする――あなたの会社も検討しては?(日経XTECH/2003.02.07)

まちづくり

都市計画・まちづくりにおいてもGISは欠かせないツールです。人流、人口密度、ランドスケープなどのデータを組み合わせることで、より効率的で持続可能な都市の設計が可能になります。

人流・交通の最適
GISを使用すると、都市内の交通流を詳細に分析できます。通勤パターン、交通渋滞、公共交通の利用状況などを視覚化し、新しい道路や交通機関の配置を最適化するのに役立ちます。

施設・住宅の配置
人口密度のデータをGISで分析することで、住宅の需要と供給を正確に予測できます。これにより、適切な住宅地の開発や、公共施設の配置が可能になります。

緑地・公園の配置
都市の緑地や公園は、住民の健康と幸福に寄与します。GISを用いると、これらの緑地がどの地域に必要か、どのように配置すれば効果的かを科学的に判断できます。

参考事例

まちづくり領域でのGIS活用については、下記ガイダンスの第3章が参考になります。国交省は、近年注力しているPLATEAU(国交省主導の3D都市モデルデータ整備事業)の取り組みに合わせて都市計画データの利活用を進めており、その一環でGIS活用事例を積極的に公開しています。
都市計画情報のデジタル化・オープン化ガイダンス(国土交通省)

災害対策・防災

地震や洪水などの自然災害のリスクを評価し、対策を立てる際にもGISは役立ちます。災害時の被害範囲の予測や、避難路の最適化などが行えます。

災害リスクの可視化
GISを使用すると、地震、洪水、台風などの自然災害のリスクを地域ごとに可視化できます。これにより、リスクの高い地域の特定と、必要な対策の計画が可能になります。

避難路の最適化
GISの解析によって、災害時の最適な避難路を計画することができます。地形、建物、交通状況などのデータを組み合わせて、迅速かつ安全な避難を実現します。

被害範囲の予測
災害が発生した場合の被害範囲を事前に予測することで、必要な支援やリソースの配置を効率的に行うことができます。これにより、救助活動の迅速化が期待できます。

コミュニティ参加型の災害対策
地域住民がGISを活用して、自分たちの地域の災害リスクを理解し、対策を共同で計画する取り組みも進展しています。これにより、地域社会全体での災害への備えが強化されます。

参考情報

日本の行政分野でGIS導入が進んだ背景には阪神・淡路大震災(1997年)の反省があります。被害状況の把握や救助活動、復興支援を行う中で関係機関が保有する情報が生かせなかったことを踏まえ、行政へのGIS導入の必要性が叫ばれ、国主導で行政分野でのGIS・地理空間情報に関する取り組みが強化されるようになりました。現在でも、災害とGISは切っても切り離せない関係にあります。

阪神・淡路大震災が産んだ我が国のGIS(日本災害情報学会 学会誌「災害情報」/2003年)
地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議(内閣官房/2002年2月)

行政等の資産管理

公共施設の管理
公共施設の位置、状態、使用状況などの情報をGISで一元管理することで、メンテナンスの計画や予算の配分が効率的に行えます。

インフラの監視と保守
道路、橋梁、下水道などのインフラは、定期的な監視と保守が必要です。GISを使用すると、これらのインフラの状態をリアルタイムで把握し、必要な修理や改善を迅速に計画できます。

土地利用の計画と監視
GISによる土地利用の分析は、都市計画や土地利用規制の策定に役立ちます。また、不正な土地利用や環境への影響も監視でき、適切な対策を講じることが可能です。

緊急対応の強化
災害時などの緊急事態において、GISは迅速な対応を支援します。被害状況の把握、救援物資の配置、避難路の確保など、効率的な対応が可能になります。

コスト削減と透明性の向上
GISによる資産管理は、行政の効率化とコスト削減に貢献します。また、公共資産の状態と使用状況を市民に公開することで、透明性と信頼性も向上します。

参考情報

先に述べた通り、行政分野でのGIS導入は1997年の阪神・淡路大震災を機に強化された。その後、庁内各部署の保有データを統合管理する必要性が叫ばれ総務省や国交省を中心に「統合型GIS」の導入が叫ばれるようになりました。ただ、庁内システムのリプレースには長い年月がかかることや、自部署業務を進める限りは「統合型」であるメリットはないことから、現在でも統合型GISの導入状況には自治体ごとに温度差があるのが実情です。ただし近年は国主導でデータ整備・活用が主導され、中でも地図情報は国家の根幹を成すデータとして重要視されており、再び「統合型」であることの重要性が注目されています。

地図情報、行政DXの要に 「統合型」1099自治体導入(日経新聞/2023.02.10)

環境保護

GISは、環境保護の分野でも重要な役割を果たしています。

自然保護・生態系の監視
自然保護区域の管理や絶滅危惧種の生息地の保護を支援し、地域の生態系の健康を維持します。また、GISによるデータ分析を通じて環境保護政策の策定を行っています。

環境影響の評価・対策
人間活動の環境への影響を分析し、水質汚染の監視や森林伐採の影響評価など、必要な対策を科学的に計画します。
例えば、森林伐採や工場排出物の影響を地図上で視覚化し、その影響を詳細に分析することが可能です。科学的かつ効率的な意思決定を支援します。

参考情報

下記サイトでは、大気環境・水質・CO2排出量・暑さなど環境にまつわる様々な情報をGIS上で可視化し公開しています。コンテンツが充実しており、眺めるだけでも面白く、多岐にわたる環境テーマを視覚的に捉えることができます。

環境展望台 環境GIS(国立研究開発法人 国立環境研究所)

農業・資源管理

GISの活用により、農業の効率と生産性を高め、資源の持続可能な管理を支援し、未来の食糧供給と環境保護にも寄与します。

土地利用の最適化
GISは土壌の種類、気候、地形などのデータを分析し、作物の種類や配置を最適化します。これにより、収穫量の向上と環境への負荷軽減が可能になります。

水資源の効率的管理
灌漑や水質管理においてGISのデータ分析は、水の無駄を減らし、農業の持続可能性を高めます。

作物の健康監視
衛星画像やドローンによる観測を組み合わせることで、作物の健康状態をリアルタイムで監視し、病気や害虫の早期発見と対策が可能になります。

参考情報

近年、一次産業従事者の高齢化・就業者減少の背景を踏まえて「スマート農業」の重要性が叫ばれています。スマート農業はロボット、AI、IoTなどの先端技術を活用した農業のことで、効率と生産性の向上を目指しています。その技術群の運用背景にはGIS(地理情報システム)が存在し、データ管理から解析、可視化に至る一連のプロセスを担っています。これらの技術群は、今後の農業の発展と持続可能性に大いに貢献すると考えられています。

スマート農業 解説サイト(農林水産省)

教育・研究

地理教育の支援
GISは地理学の教育において、地域や地形の視覚化を可能にし、学生の理解を深めます。仮想的なフィールドトリップなども実現でき、教育の質を向上させます。

地域社会の研究
地域の人口動態、経済、文化などをGISで分析することで、地域社会の深い理解と、政策立案や社会サービスの改善に貢献します。

歴史的な地域分析
歴史的な地図やデータをGISで解析することで、過去の地域の変遷や文化的背景を研究し、歴史教育や文化保存に活用します

参考情報

教育分野では、学習指導要領の改訂に伴い、2022年に高校の必修科目として「地理総合」という科目が新設されました。地理総合の柱の1つとしてGIS教育が置かれ、これまでに挙げたGISを通じたまちづくりや防災、環境などへのアプローチは、従来「専門的なスキル・技能」とみなされていたこともありましたが、今後は一般的なデータ活用手段としてますます普及しそうです。

GIS教育 地理総合教育支援(GIS)情報案内(地理情報システム学会)

まとめ

GISは、ビッグデータが世に溢れデータ駆動型の意思決定が行われる現代において、分析ツールとしてもデータビジュアライズの手段としてもその存在感が増しています。今回挙げた領域はもちろん、今後さらに多くの分野・用途でGISが活用されていくことでしょう。この記事を通じて、GISの応用分野についての理解が少しでも深まっていただけたら嬉しいです。