日本の行政機関・区制度
前記事では日本国内のGISデータや地図を扱ううえで背景知識として必要な情報として、住所を整理しました。
今回はその中でも日本の区制度について整理したいと思います。住所を扱っていると「えっ。大阪の区と東京の区は違うのです!?」という話題が頻繁に取り交わされます(例えば東京にも大阪にも「北区」がありますが、呼称が同じだけで全く違う役割・位置付けの制度です)
日本には様々な”区”制度が存在し、混同されることも多いので重点的に整理しました。
日本の行政機関
まず区制度について整理する前に、日本の行政機関(行政体)を雑に表現すると、日本には3階層で行政体が存在します。
- 日本国政府(中央官庁)
- 広域自治体(都道府県)
- 基礎自治体(市町村など)
例えば京都市に住む住民の場合、自身に直接関わりのある行政体は、京都府庁、京都市役所の3階層です。それぞれの階層で首長選挙や議員選挙があるし、それぞれ税金納税も行っています(国税、府民税、市民税など)。日本国内において、基本的にはどこも3階層で行政は成り立っています(都道府県、市町村など呼び方は都市によりけりですが)。ちなみに3階層と表現していますが、法令上は上下関係がある訳ではなく、対等な関係の法人となります。例えば東京都のHPでは下記のような解説があります。
地方自治法においては、都道府県も市町村も同じ普通地方公共団体として、一部の例外を除き、同一の規定により規律されており、それぞれ完全に独立した地方公共団体として位置づけられています。都道府県が、市町村を包括するという二層構造をとっていますが、都と市町村は、上下の関係にあるものではありません。
東京都ホームページ(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/tokyoto/profile/gaiyo/shikumi/shikumi09.html)
とはいえ、実務上は国は都道府県や市町村の調整役、都道府県は市町村の調整役を担っている場合が多いです。取り扱う予算規模や所管業務の性質的に言わずもがなですが…
都と市町村は対等の関係ですが、その処理する事務についてみれば、一般的に市町村は、基礎的な地方公共団体として、住民に最も身近な日常生活に直結する事務を処理し、都道府県は、市町村を包括する広域的な地方公共団体として、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの、その規模または性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの、を処理するとされています。
東京都ホームページ(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/tokyoto/profile/gaiyo/shikumi/shikumi09.html)
さて話を少し戻しますが、先ほど3階層の説明をする際に京都府(京都御所)を例にとりました。東京都(皇居)を例にとるか少し迷ったのですが…東京都の場合は少し特殊なので敢えて京都府を扱いました。東京都は本記事の主題の”区”が存在するため次の章で整理します。
東京の”区”と政令指定都市の”区”
東京都には23の区が存在します(一般に東京都区部、東京23区と呼ばれます)。千代田区、中央区、港区、、、など。一方政令指定都市にも似たように区が存在します。例えば京都市には上京区、中京区、下京区…と11の区が存在します。
ともに郵便物を送る際には「〇〇区」と表記しますが、位置付けは異なります。制度上は前者は特別区、後者は行政区という別の種類の区です。
東京の23区(特別区)は独立した自治体で市町村とほぼ同様の機能を持った組織です。選挙で選ばれた区長・区議会が存在します(千代田区長、千代田区議会など)。一方で京都市や大阪市のような政令指定都市の区(行政区)は自治体の中の内部的な区分です。例えば京都市の場合、京都市長・市会議員は選挙で選ばれた政治家ですが、区議会は存在しません。区長は区ごとにいますが、京都市長が選んだ市職員です。
一般的に地方自治体を指すとき「都道府県」「市区町村」とう表現が各所で使われます。「市区町村」には特別区を含んで行政区を含まないことに注意が必要です。
繰り返しになりますが、行政区はあくまで市の内部的な組織です。市の意向によって区割り再編が行われることもあります。直近では静岡県浜松市では、7区ある行政区を2024年に3区に再編する構想があります(2022年7月時点)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kikaku/kuseido/2022-1.html
様々な”区”
前章では特別区と行政区を扱いましたが、地方行政を整理するうえでは他にもいくつかの区が存在します。前章の区を含めて改めて整理します。
特別区
前章で説明した、いわゆる「東京の区」がこれです。法人格を持ち(法律上、特別地方公共団体という法人格を持ちます)、公選の区長・議会が存在します。市町村と同様に基礎自治体に含むことが一般的です。ただし法律上は市町村は普通地方公共団体、特別区は特別地方公共団体という組織体で、その所管業務はやや異なります(特別区のほうがやや業務領域が小さいです)。
少し東京の歴史に遡ります。東京は1943年まで「東京府-東京市」という2層構造でした。今でも大阪・京都は「大阪府-大阪市」「京都府-京都市」の2層構造ですよね。しかし1943年に第二次世界大戦の戦況が激化する中で「帝都の統制をとるため、市を廃して東京府と権限集約を!」という国家的な号令のもと府市合併が行われました(合併後の実質的な後継団体は東京府ですが、しれっと東京都に改称されています)
ただ、さすがに東京都が基礎自治体の業務すべてを所管するのは厳しいため、一部の地域密着業務を担うための東京都の内部組織として設置されたのが現在の東京23区でした。戦後、当初の目的を失った東京23区は東京都から権限移譲が順次行われました。東京都から23区が独立性を保ち、法的に市町村とほぼ同列の組織になったのは実は2000年と最近です。となっています。ただ、今も東京都が「市町村が持つ権限の一部」を保持し続けていることから「市町村とはほぼ同列だが、少し違う存在」となっています。
なお、東京都以外であっても人口200万人以上の都市圏であれば所定の手続きを踏むと市を特別区に分解できます。この制度には課題も多く、現状で東京都以外にこの制度を活用している例はありませんが…(2010年代前半に話題となった「大阪都構想」は、まさにこの制度に基づき大阪市を東京都に倣って特別区に分解する構想でした)
行政区
前章で説明した、いわゆる「政令指定都市の区」です。市の中に存在し、法人格は持っておらず、公選の首長・議会も存在しません。ただし市長から任命された区長は存在します。政令指定都市という巨大都市を効率的に管理するために、市の中に内部的に設置された機関で、トップの区長は市の管理職の1人です。
総合区
2014年の法改正で新たにできた制度です。市の中に内部的に設置された機関で、法人格は持っておらず、公選の首長・議会も存在しません。ただし市長から任命された区長は存在します。
政令指定都市は通常、行政区を設置しますが、市議会の賛成(条例の制定)によって総合区に移行することができます。2022年現在、この制度を採用する都市は存在しないです(一時、大阪都構想が住民投票で否決されたのち、大阪市がこの制度の採用を検討していました)
行政区と同様に区長は市長の部下ですが、独自の予算執行権を持つなど権限移譲が行われています。一般企業に例えると、行政区は事業部制、総合区は社内カンパニー制に近いイメージです。
地域自治区
平成の大合併の際にできた制度です。市町村の中に内部的に設置された機関で、法人格は持っておらず、公選の首長・議会も存在しません。ただし市町村長に選任された構成員による地域協議会や区長(または事務所長)が存在します。行政区と同じように住居表示で区名を表記します。
「合併後も合併前の自治体の繋がりを残したい!」という自治体において本制度を採用することができます。大都市ではないが住所に区が付く場合は、この制度に基づく区である場合が多いです。合併後10年で自治区を廃止する自治体も多かったのですが、10年を超えて現在も地域自治区を設置している自治体がいくつかあります。例えば新潟県上越市では、合併を機に28の区を設置しています。https://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/jichi-chiiki/jitiku.html
合併特例区
平成の大合併の際にできた制度で、上に記載した地域自治区と類似した制度です。市町村の中に存在し、法人格を持っており(ここは地域自治区と違う点)、公選の首長・議会も存在しません。ただし市長村長に選任された構成員による協議会や区長が存在します。
地域自治区との大きな違いは、合併特例区は法人格のある組織である点です。法人格があるため、例えば合併前の旧市町村が運営していたコミュニティバスの運営権を合併特例区が引き継ぐ…ということも可能です。ただ現在は平成の大合併から時間が経過し、合併特例区は存在しなくなりました。
財産区
昭和の大合併の際に創設された制度です。「A市とB村が合併した後もB村の財産は自分たちで守るぞ!」という趣旨の制度で、ここでいう財産とは山林や畑、温泉などを想定しています。市町村の中に内部的に設置された機関ですが、法人格も持っています。公選の議会も存在します(法律上、特別区と同じ特別地方公共団体という法人格を持ちます)
法人格があり公選の議会もあるため、一見すると東京都の特別区に近いように感じます。ただ、特別区と違って市町村の下位に存在し、予算は所属する市町村の特別会計扱いになります。議員も成り手がいるわけでもなく無投票当選が多く、地域の公民館で定例会を開いている場合が多いです。平成の大合併を機に廃止する例が増えましたが、それでも現在まで残っている例が全国にあります。
余談
以上、日本国内の行政体が3階層であること、3階層目の基礎自治体の層には様々な”区”が存在することを整理しました。行政体が3階層あることは日頃からイメージを持たれている方が多いかと思います。一方で”区”は、自身が住んでいる地区が該当の区でない限りはあまりイメージが沸かない方も多かったかと思います。
最後になりますが…行政体は3階層とお伝えしたものの、実際は少し複雑・イレギュラーなケースがあります。
広域連合
法律上、広域連合という制度があり、複数の自治体で業務を共同化することができます。法人格があり、所属する自治体の住民または首長間の選挙で選ばれる広域連合長と、所属する自治体の住民または議会で選ばれる議員・議会が存在します。
この制度、隣接した市町村同士で消防組合などを立ち上げる際に利用されることも多いのですが、1例ほど特徴的な広域連合があります。それは関西広域連合です。関西圏の8府県が参加する広域連合で、地方分権を意識し都道府県間で広域連合を設置している唯一の例となります。
関西広域連合HP https://www.kouiki-kansai.jp/
広域防災や観光・文化振興など敢えて府県ごとに対応するよりも8府県で協力したほうが効果的な業務について、広域連合に業務集約させています。また国に対して、国が持つ権限の一部をこの関西広域連合に移譲するように働きかけています。関西広域連合が直接的に道州制に繋がる訳ではありませんが、将来的には「行政体の3階層」の構成が変わるきっかけとなりうる取り組みなので要注目です。
以上少し脱線しましたが、今回のお話はこれで終了としたいと思います。
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