日本の住所の体系的整理
本サイトでは日本国内のGISデータや地図を扱っています。今回はそれらを扱ううえで背景知識として持っておきたい「日本の住所」について整理したいと思います。この手の整理は、複数の法律や慣習(有名なところでは京都の通り名など)が絡んでくるので中々整理が難しいです。
住所の定義
そもそも「住所」とは何でしょうか。日本に「住所法」なんてものが有れば話は早のですが、実は住所を体系的にまとめた法律はありません。
まず住所に関して整理するうえで、次の2つの点は注意が必要です。
- 一言に「住所」と言っても様々な定義が存在する
例えば民法上の住所は「1人が複数持ちうるもの」です。一方で地方自治法や住民基本台帳法では「1人1つのみ持つもの」とされています。
- 私たちが日常生活で使う住所は住民票に記載する住所(≒住民基本台帳に関する法令で定義されたもの)が多い
実際、住民税、運転免許証、選挙権など、多くの制度が「住民票上の住所」を「住所」として扱っている。
今回は前者のことは一旦脇に置き、住民票に記載する住所を整理したいと思います。住民票にどのような住所を記載すべきかは下記の通り明文化されています。
都道府県、郡、市、区(指定都市の区並びに市町村の合併に際して設ける合併関係市町村の区域による地域自治区(以下「合併に係る地域自治区」という。)、合併に係る地域自治区の設置期間の満了に際し当該合併に係る地域自治区の区域をその区域として引き続き設けられた合併関係市町村の区域による地域自治区、合併特例区及び合併特例区の設置期間の満了に際し当該合併特例区の区域をその区域として引き続き設けられた合併関係市町村の区域による地域自治区をいう。)及び町村の名称並びに市町村の町又は字の区域の名称のほか、住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)に基づく住居表示が実施された区域においては、街区符号及び住居番号を、その他の区域においては地番を記載する。なお、団地、アパート等の居住者について、上記の記載のみでは住所が明らかでない場合には、アパート名、居室の番号まで記載し、間借人が別個に世帯を設けている場合には「何某(間貸人氏名)方」まで記載する。…(以下割愛)
住民基本台帳事務処理要領 第2 住民基本台帳 1 住民票 (2)記載方法 キ 住 所
長いので次項で整理・図化します。
(住民票に記載する)住所の概略
住民基本台帳事務処理要領を要約すると、住民票の住所欄には次の情報を記載することが想定されています。
- 都道府県、郡、市、区及び町村の名称
- 市町村の町または字
- (住居表示の実施区域の場合は)街区番号及び住居番号
- (住居表示の非実施区域の場合は)地番
このように住所は、住居表示が行われているエリアか否かで分岐が発生します(参照先法令が分かれます)
住所を規定する参照先法令
住居表示が実施した地域→住居表示に関する法律(住居表示法)
住居表示が実施していない地域→不動産登記に関する法律(不動産登記法)第35条
地番
地番とは、次のような不動産登記の際に用いる土地の管理番号(地番)のことを指します。
地番の例: 〇〇県 ××市 大字△△ 123番地
市区町村名に続くのは<地番区域> <地番> です。地番区域は字名が入ることが多いのですが、市区町村そのものが地番区域になる場合もあります(つまり「〇〇県××町50番地」といった住所が存在する場合もあります)
住居表示の制度ができるまで、住所といえば地番住所を指すことが一般的でした。しかし地番住所には
- 同じ土地に複数の建物が建ったとき、全て同じ地番(住所)になる
- 元々登記を整理するための番号なので、隣接した土地が連番になっていないことも多い
といった状況があり、市街化が進むほど“住所を頼りに目的地に着くことが困難”といった弊害が目立つようになりました。当時の人々の情報伝達手段は郵便のため、郵便業務に支障が出ると社会活動にも影響が大きいです。そのような課題の解消を目的に制定されたのが住居表示制度でした(1962年に制定)。制定以降、全国各地で都市部や住宅街を中心に住所の住居表示への移行が進んでいます。
住居表示
住居表示とは、市街地などの建物が密集したエリアに対して、一定のルールに基づいて区画や道路に番号を振る仕組みです。戦後、市街地が過密化する中で地番を住所として用いることの限界が生じたため、住居表示制度ができました。
住居表示の例: 〇〇県 ××市 △△町 2番 1号
市区町村名に続くのは<町名または字名> <街区番号> <住居番号>です。
なお、住居表示であっても同じ住所の建物が複数ある場合があります。住居表示末尾の住居番号は「道路」に対して設定されているため、下図のように設定した道路から更に細い路地が伸び住宅が複数ある場合などは、すべて同じ住居表示番号となります。それでも地番に比べては同一住所になる可能性は低いです。
なお、ごく稀ですが上記とは異なる方法で住居表示を行う場合もあります(道路方式といって国内では山形県東根市で採用例があります)
国交省HPより https://www.mlit.go.jp/road/torimei/toorina/nerai.htm
また、都市部であれば必ず住居表示を実施している訳ではありません。例えば京都市は大都市ですが、住居表示を採用せずに地番と独自の通り名を使用して住所を伝え合っています。
住所階層の図化
ここまでの説明を踏まえ、かつ元の法令を読み直し、(住民票に記載する)住所の全体像を図化しました。
住所の構成要素を上位概念から順に並べました。最上位に都道府県があり、次の階層に市区町村(一部町村では間に郡が存在)までは違和感なく受け入れられるかと思います。一方合間に出てくる区については、日本には様々な区制度があるため少し厄介です。ここでは敢えて触れず別記事で改めて説明したいと思います。
そしてその下の階層に、住居表示 –道路方式と街区方式– が存在します。道路方式については先ほど深く説明しませんでしたが<道路の名称><住居番号>の2要素で成り立っています。
また、住居表示を実施していない地域では、住居表示 -道路方式と街区方式-に相当する部分には地番住所が入ります。
補足:町・字について
上の図では細かく触れずに書いたのですが、1か所補足したいことがあります。それは町・字です。町・字は住居表示または地番住所に出てくる概念ですが、実は町・字の定義は法律で明確に規定されていません。慣習法といえばそれまでですが、明確な定義がない故に自治体ごとに運用がバラバラです。
なお慣習的には
- 町…主に市街地で多い表記。<町>の下層に<丁目>が設定される場合もある。
- 字…主に農村部で多い表記。<大字>の下層に<小字または字>が設定される場合もある。
といった整理で説明が付く場合が多いです。
例えば、秋葉原近くにある神田明神の住所は「東京都千代田区外神田2丁目16−2」ですが、この場合「外神田」は町名、「2丁目」は「丁目名」です。一方同じ千代田区でも「東京都千代田区紀尾井町1−2」という住所もあり、この場合は「紀尾井町」は町名、丁目は存在せずに街区符号が続きます。
なお、小字は江戸時代の村名に、大字は明治初期の旧町村名に由来する場合が多いです。それぞれ明治の大合併、昭和の大合併の際に旧自治体名が残った形です。平成の大合併の際は、大字の上位に新たな字を設定せずに大字名の中に旧町村名を追記する事例が多くありました。
ただ先に記載した通り町・字の構造は慣習的に様々なパターンが存在するため、必ずしも上記の通りとは限らない(自治体によっても異なる)ことにご留意ください。
余談
例えば千代田区は様々な住所体系が混在する面白い地域です。
神田淡路町一丁目1番地
一見すると<町><丁目>とあるため、先に示した神田明神(外神田2丁目)と同じ住所構成かと思ってしまいそうですが、、、
実際は「淡路町一丁目」が地番区域、「1番地」が地番の地番住所です。実は神田淡路町周辺は住居表示を実施していませんが、住居表示地区に近しい<町><丁目>の構成をとっているエリアなのです。
千代田区HP
https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/tochi/jukyohyoji/hyoki.html
このように町丁目、字の運用は自治体によっても特色があるので、ぜひお住まいの地域の住所について、どんな運用がなされているかご確認ください。歴史的な経緯などを深堀すると面白かったりします。
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